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宇都宮地方裁判所 昭和62年(ワ)212号 判決 1987年11月27日

原告 松本昌久

右訴訟代理人弁護士 木村謙

被告 甲田食品こと 甲野太郎

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物を明渡せ。

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の物件を収去せよ。

三  被告は、原告に対し、昭和六二年九月一日から右建物明渡しずみに至るまで一か月金八万円の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決一ないし三項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は別紙物件目録(一)記載建物(以下本件建物という)を所有しているが、昭和六二年四月二一日、被告に対し、左記約定により本件建物を賃貸し、これを引き渡した(以下本件賃貸借契約という)。

(一) 期間 昭和六二年五月一日から同六四年四月三〇日までの二年間

(二) 賃料 一か月七万五〇〇〇円を毎月末日限り翌月分を持参または送金により払う。

(三) 駐車料 一か月五〇〇〇円を(二)と同様に支払う。

(四) 目的 食品販売、卸業のための事務所

(五) 特約 原告の承諾なしに増改築をし、その他工作物の設置をしてはならない。

2(一)  ところが、被告は、広域暴力団住吉連合会に所属するものであり、本件建物を、本件賃貸借契約に定められた食品販売卸業を営むための事務所という用途に反して、暴力団の事務所として使用するに至っている。

(二) さらに被告は、原告に無断で、本件建物の正面入口付近に別紙物件目録(二)記載のぶ厚いコンクリート壁(以下コンクリート壁という)を設置してしまったが、これはいかにも殴り込みを受けた際の防御壁のような外観を呈しており、原告が右コンクリート壁の撤去を催告しても被告はこれに応じない。

(三) 以上のような被告の行為は、原告との信頼関係を破壊する背信行為であるから、原告は、本訴状の送達をもって本件賃貸借契約を解除し、本件賃貸借契約は昭和六二年六月一二日解除された。

3  本件建物及びこれに付帯する敷地の相当賃料は、一か月八万円である。

4  よって原告は被告に対し、本件賃貸借契約の終了にともなう返還義務の履行として、本件建物の明け渡しとコンクリート壁の撤去及び本件建物引渡後である昭和六二年九月一日から明け渡しずみに至るまでの一か月八万円の割合による賃料損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実中、(五)の特約の点は否認し、その余は認める。

増改築禁止の特約はなく、契約書には改造のみが記載されている。

請求原因2の事実中、コンクリート壁を設置したことを認め、その余の事実を否認する。

コンクリート壁は、前借家人の設置した看板の鉄骨が残っているので、これを隠すためやむを得ず設置したものである。

本件建物が暴力団事務所として使用されている事実はない。

請求原因3の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

請求原因1及び3の事実は、本件賃貸借の特約の点を除き、当事者間に争いがない。

そこで請求原因2の事実について判断するに、被告が本件建物の正面入口付近にコンクリート壁を設置したことは争いがなく、《証拠省略》によれば以下の事実が認められる。

本件建物の正面入口付近に設置されているコンクリート壁は、厚さが約二〇センチメートルもあり、殴り込みをかけられた時の防御壁のような外観を呈していること、

警察から原告に対し、本件建物に暴力団風の人が出入りし、外車が止まっている旨の連絡があったこと、

原告の代理人訴外豊田が被告に電話で連絡をとったところ、住吉連合の暴力団員乙山春夫が出て、被告の兄貴分と名乗ったこと、

本件建物内にはのぞき窓が設置され、内装も暴力団事務所風であること、本件建物内において昭和六二年九月二三日暴力事件が発生したこと、以上の事実が認められ、この事実によれば本件建物は暴力団事務所として使用されていることを推認することができる。

検証の結果によれば、本件建物の入口ガラス戸には甲田食品の表示がされ、建物内には若干の漬物類が置かれていることは認められるが、これをもってしても前認定を左右することはできないし、他に前認定を覆するに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告は、食品販売業のための店舗兼事務所という用途に反して本件建物を暴力団事務所として使用しているもので、防御壁のようなコンクリート壁を設置したり、本件建物内で暴力事件を起こしている等の前認定事実を考慮すれば、本件賃貸借契約を継続しがたい重大な事由があるものということができる。原告が本訴状により本件賃貸借契約解除の意志表示をなし、本訴状が昭和六二年六月一二日被告に送達されていることは記録上明らかであるから、本件賃貸借契約は同日解除されたもので、賃貸借契約の終了にともなう返還義務、原状回復義務の履行として、本件建物の明け渡しとコンクリート壁の撤去を求めるとともに、昭和六二年九月一日から明け渡しまでの賃料相当損害金の支払を求める本訴請求は理由がある。

よって本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林登美子)

<以下省略>

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